夫が入院した。
診断名は、「アキレス腱断裂」。
事件が起こったのは先週の土曜日。
職場の先生方が立ち上げたフットサル同好会に、有難いことに夫も声をかけていただいた。
ダニエル
妻!先生たちがサッカーチームに誘ってくれたから行ってきます
フィリピンではとにかくバスケが盛んで、バギオでも至るところにバスケットゴールがある。
一方で、バギオでサッカーというスポーツを私はまだ目にしたことがない。それも、外を歩けば「ほぼ坂」というバギオの地形をみれば納得がいく。フィリピン全体として、サッカーができるような平地が少ないのだろう。昔、セブ島に行ったときに友達になった現地人の男の子になんでここの人たちはサッカーをしないのかと聞いたら、「No space」と言っていたのを思い出した。
そんなサッカーのない地域からきた夫。唯一のサッカー経験は、体育の授業で数十分だという。そんな彼が「新しいことを始めるのに遅すぎることはない」と名言(後に迷言となる?)を残し、はじめてのフットサルに嬉々として出かけていった。
もちろんサッカーとフットサルの違いなど知りもしない。
出かける前、夫は「メガネが割れたら危ないからコンタクトレンズを買う」だの「サッカー用の靴が必要だからアウトレットモールに行く」だのと言っていた。
典型的な「形から入るタイプ」の人間だ。(かくいう私もはじめての事務職に就く前にMOSの参考書をまとめ買いして結局未だに資格を取っていないので人の事は言えないが)
当然のことながら「一度のフットサルのために買う必要は全くない」と私に一蹴され、夫は家を出る直前までメガネが割れることを極度に心配していた。
夕方に家を出た夫からメッセージがきたのは夜7時頃。
ダニエル
怪我した!自分の足を蹴ったかも(笑)AHAHAHAHAHA
車で駅まで迎えに行くと、壊れた操り人形のような歩き方をした夫がピョコピョコとこちらへ向かってくるのが見えた。
車中、夫は得意げに話した。
ダニエル
二得点もしたよ。一点目はPK、二点目はふつうに決めた。サッカーの素質があるかも
自分の足を蹴ったと聞いていたので「重めの打撲だろう」程度に考えていた私は、家に帰って氷水の入った袋をタオルで巻きつけ応急処置をし、娘の寝かしつけ途中だったこともあり話もろくに聞かずにさっさと2階へ上がってしまった。
翌日は日曜日で、病院はどこもやっていない。夫は少しつま先に触れるだけで飛び上がるほど痛がっていて、とても娘の面倒を見られる状況ではないというので、私も泣く泣く自分の予定をキャンセルして育児も家事も戦力外の夫と家で過ごした。もちろん不機嫌だ。
そこまで痛がっているのになぜ救急外来に連れて行かなかったのかと言われそうだが、普段からオーバーリアクションの人間を見極めることほど難しいことはないのだ。夫を直接知っている人なら理解してもらえると思う(笑)
月曜の朝イチで、地元の接骨院に行った。
中学、高校と部活で怪我をするたびに通っていたので先生のことはよく知っているし、腕も確かだ。
夫の足首の周りを少し触って、先生は淡々と言った。
「アキレス腱が切れてると思いますよ。そうするとうちでは診られないからね。紹介状書きますから。▲▲病院でいいですか?」
打撲かと思いきや、おそらくアキレス腱が切れているとのこと。
メガネが割れる心配をしていた人が、まさか自分のアキレス腱が切れることを予測しただろうか。
実は夫はこの2週間前に来日の代償として花粉症デビューも果たしていて、もう色々と不憫で、申し訳ないが笑いが堪えきれなかった。
ダニエル
妻、先生が包帯巻くの手伝ってあげたほうがいいんじゃない?…イィッ!!
アキレス腱が切れている男が、診察台にうつ伏せで横たわりながら歴37年の先生が包帯を巻くのを心配してあげている。いつもどおりの夫の優しさが、やっぱりどうしても笑えてしまう。こんな妻でごめん。と内心謝りながら、もう無理と両手で顔を覆い、肩を震わせた。
紹介状を持って、タクシーで少し離れた整形外科病院へ行った。
30分前まで、接骨院でサッと診てもらって各々仕事に行くつもりだったが、アキレス腱断裂と聞いて出勤の希望は途絶えた。
さらば、年休。
ドクター
アキレス腱断裂という診断になります。おそらく手術になると思いますが
この一年で、夫の言い間違いを瞬時に正しい日本語に変換しフォローする能力がずいぶんと高くなった日本人妻。
MRI検査のあと、治療方法の話になった。
入院・手術をして治すか、少し時間はかかるが通院・リハビリのみで治すか。
今回はじめてお世話になったこの病院は、受付窓口、看護師、医師ほぼすべてのスタッフが驚くほど感じの良い、というか外国人ウェルカムだなと感じた。都心でもないのにこの(外国人受け入れ体制が整っている)対応は、とくにこの辺りでは珍しい。
診察時、担当医師は私でなく夫の目を見て、夫に対して話してくれた。もちろん日本語なので私が通訳しながらにはなるが、その姿勢が嬉しかった。夫が日本に来てから5つほどの病院にかかったが、ほとんどの医師は夫が外国人であることがわかると夫ではなく私に話をする人ばかりだった(というか、夫不健康すぎ?)
入院に関する話のときも、担当看護師が自らのスマホを取り出して、翻訳機能を使って夫がわかるまで説明してくれた。
一人だけ、入院するならここへ署名をとやたら急かしてくる人がいたが、早く決めなきゃ… と焦る私の横で、不信感を露わにし「あの。まだ決めてないんですから、あとでもいいですか?」と、相手の国の言葉できちんと自分の意見を言える夫を見て、さすがだと思った(私はそういう意思表示がとても苦手)。
考えるのに充分な時間をもらい、本人も私もとくに大きな心配はなく、手術と入院を選択することができた。
コノミ
面会、できないんですよね。複雑な言葉はわからないので、手術のときや入院している間にお医者さんや看護師の方が言っている内容が理解できないことが不安です
ドクター
お医者さんは大体みんな英語喋れるから大丈夫ですよ。あとなるべくシンプルな言葉を使うように手術チームには共有しますから
ダニエル
あのー、ぼくはタトゥーがありますから。おへやは二人なんですよね?ほかの人がこわくないかな?ちょっとしんぱいですね(笑)
ドクター
あのー、、ぜんっぜん平気。今いっぱいいるからw 背中全体にブワーっと入ってる人もいたよ。今もいるかも。全然大丈夫(笑)
前回、夫が大腸炎で通院した病院でも、やはり入院か通院かという話になったが、外国人だから説明しても分からないと思われたのかほとんど医師からの説明はなく、コロナ禍なので面会は一切不可、言葉も全く通じない、そんな状態で入院するかどうかすぐに決めろとのことで、本人のことを考えれば入院して治療に専念したかったが、こんな病院に夫を預けられないと仕方なく通院を選択した。
世界トップレベルの医療を誇る国で、言葉の問題だけが原因で希望する治療を受けられないのはとても残念なことだ。しかしながら、外国人のパートナーを持つ者としては「それが受けられて当然」ともまったく思わない。言葉の壁を作らないよう努めてくれたこの病院のスタッフには頭が上がらない。
結局、入院前検査でほぼ半日を病院で過ごした。
コノミ
?あなたがまともな人間だったら私ブログに書くことないよ。
普通に生きているだけでネタを量産してくるフィリピン人夫。(面白がってません、心配しています)
今回は足の怪我だけで不幸中の幸いだった。
日本の病院で入院、手術、リハビリとなかなかの経験ができることを本人も「楽しみ」と言っているので、私も日本人妻としてこの状況を最大限楽しもうと思う(笑)
頑張れ、夫。