フィリピンに恋して。
~フィリピン・バギオのリアルライフ~
イフガオ PR

イフガオで結婚式を挙げた話①~お義母さん、イフガオで結婚式がしたいです。~

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

 

「お義母さん、私、イフガオで traditional wedding がしたいです」

軽々しく私が言い放ったその台詞に、穏やかな義母の表情が一瞬だけ曇ったのを、画面越しに私は見逃さなかった。

 

 

他人の結婚式では新婦入場の瞬間から涙を流す私だが、自分の結婚式となると昔からまったく興味がなかった。

だから、物心ついた時から結婚式をするのが夢だったという人の気持ちも、一年も前から準備して細部までこだわった結婚式を創り上げている人の気持ちもよくわからないでいた。

日本で結婚式を挙げる場合の相場については今もよく知らないが、平均200〜300万からといったところだろうか。500万かかったという人の話も聞く。

私たちはというと、同じお金があれば旅行したいと思うタイプだった。その辺りの考えが夫婦で一致していたのは、ラッキーだと思う。まあ、そんなお金もないのだけど。

私たち夫婦の「結婚」を振り返ると、あまりに「作業的」だった。

2020年、私がバギオに滞在していた頃に結婚の手続きをする予定が、コロナ禍で難航。結局、書類上の手続きが何もできないまま私だけ帰国した。

お互いが離れて暮らしながら、結婚手続きをすることとなった。

国際結婚の場合、双方の国で書類上の手続きをする必要があるが、夫婦揃って役所に行けないという理由で手続きはさらに難航。

ようやく日本の役所で婚姻届を提出したのは、帰国から4ヶ月後だった。我ながら、「今から婚姻届を提出する人」とは思えないほど緊迫した表情をしていたと思う。

その半年後にフィリピンで婚姻届が受理され、フィリピンでの失敗も含めると約一年半かけて、めでたく二つの国で正式に夫婦となった。

結婚記念日というのは夫婦の思い入れのある日に設定するものらしいが、私たちの場合は「書類が揃って最短で役所に行ける平日」がその日だった。だから何の思い入れもないのだが、何の思い入れもなかった日が突然特別な日となるのも悪くない。

そんな、結婚式に対する私の冷めたイメージをいい意味でぶっ壊してくれたのが、イフガオの traditional wedding (伝統的な結婚式)だった。

事の始まりは、夫がFacebookでいいねを集めていた1枚の写真を私に見せてきたことだった。

パッと見で100人は優に超える数の村人が、長い列をなしている様子を撮影したその写真は、コロナ禍のバギオで、月に一度配られる食糧を受け取りに行ったときと似ていて、懐かしくもあった。

ダニエル「これ、イフガオの結婚式だよ」

コノミ「これが結婚式?」

ダニエル「村人が watwat を求めて並んでるんだよ。イフガオの結婚式は自由参加。コミュニティが小さいからみんな食べ物がもらえるらしいと聞きつけてやってくるんだ」
*watwat(ワットワット)…葬式や結婚式などの儀式の際に人々に無料で振る舞われる料理のこと)

コノミ「どんな料理?」

ダニエル「豚だよ。豚の頭数がコミュニティでの階層を表す。富裕層は豚じゃなくカラバオだったりね」

コノミ「うちの近所でやってたお葬式と同じだね。豚一頭って一体いくらするの?」

ダニエル「25K〜30Kペソかな。新郎側の家族は、新婦側の家族が提示した頭数の豚を用意する。例えば、5頭と言ったら5頭。それが用意できなければ、結婚する資格はないんだよ。新婦側は、肉以外の食材を用意する。米とか、野菜、ワインとかね」

コノミ「すごい」

ダニエル「バギーニでこのスタイルの結婚式が行われたのは、数十年前にアラブ人と国際結婚した女性が最初で最後だよ。でもそのときは女性側がイフガオ族だった。男がイフガオ族だと全然違うんだ。そのパターンはまだ誰もやったことがない」

夫と出逢ったときも、「おもしろそう」という理由でついていった。思えばあの時から、あらゆる出来事の発端は、私の「おもしろそう」なのだ。

夫があのときFacebook上の一枚の写真をうっかり私に見せたことが幸か不幸か、こんな「おもしろそう」な結婚式なら、お金をかけてでもぜひやりたいと思った。普通の人は、一生に一度も経験できないかもしれないことだった。

数日後、義母といつものようにビデオコールをしていたときに、早速このことを話題にした。

「お義母さん、私、イフガオで traditional wedding がしたいです」

軽々しく私が言い放ったその台詞に、穏やかな義母の表情が一瞬だけ曇ったのを、画面越しに私は見逃さなかった。

だが義母は、私達二人が望むならもちろんと何も聞かず快く受け入れてくれた。

 

電話を切ったあと、私は夫に言う。

コノミ「お義母さん、お金のこと心配だよね。でも新郎側が出すべきお金は全部私達の貯金から出せばいいから大丈夫だよね?」

ダニエル「I think so.」

 

このとき私達は、義母が心配する本当の理由についてまだよくわかっていなかった。

 

山岳地帯では、こんな言い伝えがある。

“If you see the smoke and hear the beating of gongs, then you are invited to the party”.

煙が見え、鐘の音が聞こえたら、パーティーに招待されたも同然だ。

明日の朝のフライトで、イフガオに行ってきます!