フィリピンに恋して。
~フィリピン・バギオのリアルライフ~
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フィリピン人夫の外免切替 ~完結編~

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ついに、夫が日本の運転免許証を取得した。

「外免切替って1年8ヶ月もかかるのですか」とフォロワーからいただいたコメントに「書類さえ揃っていればすんなり取れると思います」と返したものの…

どうして1年8ヶ月もかかったのか考えた。

二度の書類不備で事前審査を落ち、その度にフィリピンと日本のあいだで追加書類の準備をしていた。それでもせいぜい3ヶ月から半年くらいだろう。

そうか。夫のアキレス腱断裂で3ヶ月の療養、試験を受けるのに3ヶ月の予約待ち。それだけで6ヶ月だった。

日本人妻の凡ミス

2023年9月8日。

決戦の日(私は人生であと何回「決戦の日」に立ち会うのだろうと最近考える)。

6月に事前審査を通過し、試験の日程を決めるとき「9月6日までは埋まってますからそれ以降で。いつにします?」と急かされるように言われ、慌てて指定したのがこの日だ。

私はこの日だけは仕事がどうしても休めないのだと、気付いた頃にはもう遅かった。

なんと不親切なことに、日程の変更は鴻巣免許センターまで行かないとできないというから、誰かに付き添いを頼むか夫に一人で行ってもらうよりほかなかった。

「私、仕事休めないからさ。一人で行って」

そうは言ったものの、当日はすべて日本語だろうし、これまでのことを考えるとそれが原因で落ちるかもしれないとの不安が拭えなかった。

結局、いつも何かと助けてもらっている父親に、また助けてもらうことになった。

この日は台風13号が関東地方を直撃していて、朝から土砂降り。私が仕事に出たあと、夫と父は車で鴻巣へ向かった。

私は、仕事に向かう電車の中から夫にメッセージを送った。

「Be confident but be careful. Don’t get too excited.」

本人にはまったく響いていなさそうだが、夫のことをよく分かっている日本人妻だからこその適切な助言であったと思う。

実況中継

私の心配性を、父はよく分かっている。

デスクの視界に入る位置にスマホを置いて仕事をしながら緊急事態に備えていると、父がラインで実況中継をしてくれた。

「書類に証紙と写真貼って、コースも歩いて回った。今、食事中」

「受付は1番だった!」

「視力、色覚は合格!」

「筆記試験が始まった。10分間」

「採点中」

「受かった!筆記は」

「今、実技試験待ち」

「実技も一発合格!!!」

こうして8行で完結させてしまうと味気ないようにもみえるが、4時間弱のできごとだ。結局仕事に集中できず、これなら休んだのと同じだと思った。

 

外免切替はもう二度とごめんだが、国際結婚でもしなければなかなかできない貴重な経験なので、私は文句をたれつつも一連の流れを楽しんでいた。

だから、今回の試験に付き添いで行けなかったことが心底悔やまれた。

父も私と同じで絶対に面白がるタイプなので「父、好きだと思うよ」と出発前に話したのだが、やっぱり面白かったようで(笑)帰ってから、そこで出会ったカンボジア人の技能実習生の話などを聞かせてくれた。

この日に試験を受けた外国人は全部で12人で、そのうち日本語で試験に挑んだカンボジア人1人以外は全員筆記試験を合格し(筆記は言語を選べる)、夫を含めた3人が技能試験を一発合格した。

 

10問の筆記テストはおどろくほど簡単だったらしい。

ダニエル
ダニエル
妻様が6000円かけて買ってくれた教材、全然いらなかったよ

筆記で落ちるわけがないと最初から余裕をかましていた夫に「そういうこという人ほど落ちるのは目に見えてる。この問題集を暗唱できるまでやってから言え」そういって無理やり購入した問題集だ。

高かったので、いらなかったと言われてムッとしたが、問題の内容を聞いたところたしかにまったくもって必要なさそうだった(笑)

神の子

一週間ほど前に、夫は今年5つ目の四つ葉のクローバーを見つけていた(正式にはカタバミという、クローバーとはべつの植物かもしれない)。

コノミ
コノミ
すごい、私人生で四つ葉のクローバー見つけたこと一度もないよ
ダニエル
ダニエル
僕は時間があるからだよ(笑)いつも探しながら歩いてるから

 

去年、日本にきたばかりで工場で働いていた頃の夫はいつもストレスを抱えていて、肌も荒れ放題、悲しい表情をしていた。

5つのクローバーは、すべて今の職場に移ってからのことだ。心に余裕ができて、色々なことが少しずつ良い方向に動き出しているような気がする。穏やかな気持ちで、四つ葉を探しながら歩く余裕すらできたのだ。

夫のキャラクターというところも大きい。夫は頭が良いタイプではないけれど、なるほどこれだから沢山の人が手を差し伸べてくれるのだな、と思う場面は多々ある。それは言葉で説明するのは難しいのだけど。

それに、夫のマインドセットが運を引き寄せていることは間違いない。夫はいつだって幸運だ。

じつは今回も、実技試験終了後、車の中で「う〜ん。まあいけるかなあ」と判断を迷っている審査官に対し「おねがいします!!!!!!!」と深々頭をさげたらしい。自信なさげにモジモジしながら次のことばを待つより、少なくとも相手の感情は動かせるにきまっている(それが良いか悪いかはべつとして)。

「ダニエルは神の子だよ。神がいつも味方についてる。それってすごい才能だよ」

夫はハハッと明るく笑った。

登場人物

夜、父がウイスキーグラスを片手に笑いながら言った。

「なんか、いろんな人に助けられたね。外免切替ひとつだけでも」

正直、1年8ヶ月という時間がかかっているので、助けてくれた人物は思い出せても、どの場面で誰に何をしてもらったかがパッと時系列で思い出せない。良い機会なのでひとつずつ振り返ってみた。

・ドライビングスクール(フィリピンでの前職)時代の上司
陽気でお金持ちなマダム。フィリピン免許証の再発行についてアドバイスをくれ、全面的に協力してくれた。

・ドライビングスクール時代の元同僚
第一回の審査で求められた追加書類の取得に手を挙げて協力してくれた。その後、前払い金3500ペソを送金した途端、音信不通になる。揉めたあと、お金は返してくれた。

・姉夫婦と、工場時代の元同僚
大使館に提出する書類に公証をもらうため、快く証人になってくれた。

・マニラに住む謎の親戚
ダニエルの父親の弟の別れた妻の息子。マニラ在住で書類の入手を頼める人がいないか探していたところ、ダニエルが急に存在を思い出した人物。人生で2度しか会ったことがないにもかかわらず、二種類の追加書類を快く・易々と入手してくれた。いつか会うことがあれば、是非お礼がしたい。

・バギオの義家族
追加で提出した書類の一つが却下され、書類を取り直しするハメになったとき、私たちが現地に行けないので色々と動いてくれた。

・父親
いうまでもなく、今回に限らず事あるごとに助けてもらっている。今回は、仕事で休みをとって夫の決戦に立ち会ってくれた。

 

考えてみれば、私たち夫婦が現地にいないのにこの複雑な手続きを終え、夫が日本の運転免許証を手にできたことはすごいことだ。これは何かあるたびに夫と自分にリマインドするよう言い聞かせていることだが、私たちは本当に周りの人の助けがあって生活できている。

今回、その思いをより強くした。

免許を取得した翌日、仕事に行く私を夫が駅まで送ってくれた。
日本にくる少し前にフィリピンで愛車を売ったから、公道を走るのは約二年半ぶりだ。しかも、きちんと舗装された平らな道。「頭文字D」のファンでもある夫は、この日本の道路を自分の運転で走ることをどんなに夢みていたことだろう。

夫の嬉しいきもちをブチ壊すかのように、
「そこ!ちゃんと一時停止しないと」「ス、スピード出しすぎじゃない?」「寄り道しないでまっすぐ帰ってね」と、日本人妻節が炸裂。

しばらくは、車に乗るたびに心穏やかではいられなさそうだ。