「シンプルでしょう、生活が。一面に広がる田んぼ。高床式の家。
ご縁とはなんと不思議なものかと、真昼間から感動の涙がこみ上げた話。
–
レトロな町並みが特徴で観光客も多く訪れる「小江戸・川越」。
あまり下調べというものをしないタイプの私だが、前夜にふと、メインの「
誰かが見所をまとめたサイトを眺めていたところ、メインフォトスポット・時の鐘よりも少し奥に「いふがお」
私の中でイフガオといえば、言うまでもなく夫の生まれ故郷・
「いふがおなんて、珍しい名前だな。
と思いつつも、少しの期待を胸に公式サイトを見てみる。
ー着心地の良い洋服、ショール、アクセサリー、小物雑貨など おしゃれな商品を多数取り揃えておりますー
その「いふがお」という店は、埼玉の川越市と東京の国立市にいくつか店舗を構える。
(そりゃそうか。)
それでも、なんでまた「いふがお」なんて名前にしたんだろうと、
夫は予想通り目をキラキラと輝かせて食いついてきた。
「川越に、『いふがお』って店があるよ」
「What, really?!?!」
「うん、でもイフガオとは全然カンケーない(笑)洋服屋みたい。
「なんだ!残念。でもなんで『いふがお』って名前なの?」
「しらない。
「気になる。とにかく行ってみよう」
穏やかな秋晴れの土曜日。
夫が日本に来るまで私は一体ここで何をしていたのだろうと思うく
漬物屋さんの店先でおじちゃんのトークに負けて買ったキュウリが
12分3000円という観光客価格の「力車」
揚げたてのさつま芋コロッケがとんでもなくサクサクで思わず娘と目を見合わせたり、
外国にあそびにきたかのような気分で川越観光を楽しんでいたが、その間中もずっと今日一番の目的である「いふがお」
「このへんだよ」
「あれ?通り過ぎた。おかしいな、
「あった…!」
黒を基調としたその店は、
店内に入ってみる。サイトで見たとおり、
接客で忙しそうな女性スタッフの手が空くのを待って、
「あのー、すみません」
「はい」
「あのー、このお店の名前はなんで「いふがお」ですか?」
「フィリピンのイフガオ族です」
「えっ?フィリピンのイフガオですか?」
「そうです。みなさんね、
どおりで、もう100回は同じ回答をしているのだろうと思うほど
「あの、僕フィリピンのイフガオ人です!」
「えっ?そうなんですか?」
「なんでイフガオの名前なんですか?」
「オーナーがねえ、イフガオがだいすきで、
「すごい」
「オーナーね、たぶん向こうのお店にいますよ。
店舗から少し先の向かい側に、モードギャラリーがあった。
「あの、オーナーはなんていうお名前ですか?」
「川本さん」
「ありがとうございます!」
ギャラリーを見つけるのに時間はかからなかった。白い、
入ってすぐのところにいた男性スタッフに夫が声をかけた。
「あのーすみません。川本さんはいらっしゃいますか」
「私ですけど」
その瞬間、私の頭の中では朝日テレビ「世界の村で発見!
夫がフィリピンのイフガオ出身であること、
「ああ、そうですか。
ーもう30年前になるけど。20代の頃は、
彼は笑いながらそう言った。
ダニエル「どうしてイフガオがすきですか?」
川本さん「シンプルでしょう、生活が。一面に広がる田んぼ。高床式の家。
当時の記憶を探るように、
川本さんの語るイフガオの魅力が、
イフガオは30年前から変わっていないのだ。
ダニエル「でも、どうして、はじめてはイフガオに行ったんですか」
川本さん「あのねえ、30年前に旅をしていたときにねえ、
コノミ「木彫り工房に?」
川本さん「そう。村の人たちと一緒に滞在しましたよ」
コノミ「すごい。どうやって行かれたんですか?やっぱり、当時も乗合バスで?」
川本さん「乗合バスですよ。イフガオに行くバスは、いいよね。だって、
そういう川本さんも、とても穏やかで優しい笑顔だった。
店の名前にしてしまうほど好きとはどういうことなのか、
川本さん「最初は、イフガオの木彫りを持ってきて、
そういって彼が指差した、
こうして言われてみないと気が付かないものだ。
コノミ「これ、どうやって運んだんです?」
川本さん「ジープニーの天井に括り付けて、
今、ここで販売している洋服の半分は国内、
奥のコーナーに、目を引く雑貨が並べられていた。
コノミ「これは、ウガンダから直接持ってこられたんですか?」
川本さん「私のパートナーがアフリカ好きでね。
コノミ「すごい!」
川本さん「本当は、こういう自然のものが好きだから、
そう話す川本さんの表情は、少し淋しげにみえた。その「
ダニエル「これ、もしかして川本さんのですか?」
そう言って夫がスマホの写真を見せたので、補足。
コノミ「このあいだ東京の谷中に行ったら、
川本さん「これはちがいますね(笑)これ、イフガオのもの?
ダニエル「そう。きっとよく知らない人がペイントしたんだと思います。
ド派手な蛍光色で色付けされラメまで入れられてしまったイフガオの木彫りをみて思わず怪訝な顔をする川本さんの反応が、夫が最初にこの木彫りを見たときの反応とまったく同じで笑ってしまった。
▼東京・谷中で購入したイフガオのものと思われる木彫り
およそ30分くらい(もっとだったかもしれない)
夫はうれしくて胸がいっぱいになったのか、涙目になっていた。
それをみて私もうるっとした。
なんて幸せな空間なのだろう。
川本さんが最後に口を開いた。
「そう。じゃあ、旦那さんはイフガオの人で。…国籍はどちらですか?」
「あ、この子はフィリピンと日本で… え?あ、私?私ですか?私は日本人です」
「え?あ、奥さん日本人?ああ、そうですかあ。日本人。はははは(笑)」
東南アジア人に間違えられるのは日常茶飯事であったが、ここまで流暢な日本語を披露してからのお国はどちらですかは初めてで新鮮だった。
そんなたわいもないやり取りのあと、またお会いしましょうといって、私たちは店を後にした。
いつも予期せぬ素敵なご縁に恵まれているが、
興奮と胸の高鳴りがおさまらないまま、とりあえず
帰宅して、夜布団に入り眠りにつくまで、久々に夫とイフガオの思い出話が絶えなかった。
■「いふがお」公式URL:https://www.ifugao.net/