フィリピンに恋して。
~フィリピン・バギオのリアルライフ~
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「言うことをきかない外国人」の正体。

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29歳にして記念すべきフットサルデビューを果たし、見事アキレス腱を断裂した夫。

アキレス腱が切れているとも知らず翌日の卒業式(夫は中学校に勤務している)には這って参列し、やはり痛みが尋常ではないと病院へいくと、即日入院&手術となり、思わぬ形で経験値をアップさせることができた。

夫が入院しました。 夫が入院した。 診断名は、「アキレス腱断裂」。 事件が起こったのは先週の土曜日。 職場の先生方が立ち上げたフッ...

医師から、松葉杖なしで歩けるようになるのに1ヶ月半〜3ヶ月、スポーツができるようになるまでは4〜6ヶ月かかると説明を受けた。

しかし持ち前の(?)回復力で、手術から3週間後には松葉杖なしで歩行が可能に、2ヶ月半が経過すると装具を取り外し、軽いジョギングも再開できるほどになった。

来週からジャンプとダッシュの練習が始まると嬉しそうにしている。

 

退院直後は、ギプス固定の上から装具を着け、松葉杖で仕事に行った。申し訳なくなるくらい親切な先生方が、交代で近くの駅まで車で迎えにきてくださった。いつも思うことだが、本当に周りに助けられながら生活している。

夕方のリハビリには、私もできるだけ付き添うようにした。

ある日、仕事が長引いたので私だけ夫のリハビリに遅れて参加すると、看護師に話しかけられた。

ダニエルさんには先ほどお伝えしたので大丈夫だとは思うんですが…」

「はい」

「今日、装具が届いたので先ほど試着してみました。ズボンの厚みの分サイズが合わなくなってしまうので、できるだけハイソックスを着用して、装具の上からゆっりめのズボンでカバーするようにしてくださいね。それからお支払いについてなんですが、保険が適用されて最終的には7割負担になるのですが今回は治療用装具ということで、一旦10割お支払いいただいて、その後…

(今日来てよかったわ)

この病院の好きなところは、外国人を特別扱いせず日本人と同等に扱ってくれるところで、私が付き添いに行っても基本的に夫の顔を見て話してくれる。もちろん日本語で。

リハビリをしているときも、ジェスチャーを交えてなんとなく通じ合ってはいるものの、夫の日本語力を考えれば説明のほとんどは理解していないだろう。

例えば、足のマッサージをしながら

「骨折と違って筋肉の怪我なので、治るのに時間がかかります。なので、指とかをよく動かして、むくみ解消するようにしてくださいね」

のような話をしてくれるのだが、実際に夫が理解できるのは「足の指を動かすとよいらしい」ということだけだ。

 

4月に入って、私の仕事が忙しくなりいよいよ診察やリハビリへの付き添いができなくなった。病院側にも、重要なことは私に電話してほしいと伝えて、基本的には夫ひとりで行ってもらうようにした。

ある日、帰宅した夫が「今日はナースとちょっとバトルしちゃった(笑)」と、少しきまり悪そうに病院での出来事を報告してきた。

病院は、1階の診察部門、2階のリハビリテーション部門に分かれており、それぞれ受付窓口も違う。

縫った傷口が乾燥し、切れて痛いのだと2階のリハビリテーション部門で話したら、1階で診察の予約をとるように言われた。

先生「それじゃあ下で先生に伝えてください。次の診察の予約は?」

ダニエル「予約はー、たぶんないです」

先生「1階の受付で確認してください」

予約をとった記憶はないけれど、言われるかまま受付に行って次の診察予定を聞いた。

ダニエル「あのー、すみません。次のしゅじゅつ… じゃないや。すみません、えーと、しんさつの日が、いつですか?」

外国人と話すことに慣れていない人は、相手が外国人というだけで「この人の話す言語は私にはわからない」と、シャッターをおろしてしまう。

シャッターをおろした途端に、相手の話す言葉は宇宙語と化す。ちょうど、うちの祖母と夫の初対面のときがそうだった。

この看護師に夫の拙い日本語が通じたか通じなかったかは分からないが、「次の診察日はいつですか」というシンプルな質問に、看護師はペラペラと早口で何か言い始めた。

「すみません、ちょっとはやいんですから、ゆっくりおねがいします」

と伝えてみるも、スピードをゆるめるどころか表情ひとつ変えずに話し続ける。

マスクをしているから余計に相手の表情や口の動きが読み取れず、こちら側から見えるのは瞬きすらしない目元だけだ。

そんなやり取りが2,3回続いた。

一日の終わりで疲れているのはお互い様。病院はサービス業ではないとはいえ、とても親切とはいえない看護師の態度に、さすがの夫もイラっとして

「すみません。ぼくのにほんごが全然ダメですからごめんなさいね。ちょっとわからないんですから。えいごでもいいですか?」

と感情的になってしまったらしい。

すると一言「奥さんから電話してもらってもいいですよ」と。

 

翌日、私が受付に電話して事情を話し、すんなり診察の予約受付をしてもらえた。

 

診察の日、帰宅した夫がまた報告してきた。

私たち夫婦の会話はいつも日本語と英語がごちゃ混ぜだ。

ダニエル「今日はね ちょっとドクターに怒られましたw」

コノミ「なんで?」

ダ「ギプスとっていい 言ってないのに なんでとったの?ダメだよ!だって」

コ「でもこのあいだ私が一緒に行ったとき、リハビリの先生が明日からとっていいって言ってたよね?」

ダ「うん。たぶんギプスを取るかどうかはリハビリの先生じゃなくて主治医が決めることだって言いたかったんじゃない?」

ずいぶん前に、リハビリ課の先生からもうギブスはとってもいいと言われ、とっくに外していた。それ以来、はじめての診察だったのだ。

コ「そんなこと言われてもねえ。それで、なんて言ったの?」

ダ「何も言わないよ。ただ「え?」って言った」

コ「えー、なんで?リハビリの先生がいいって言ったって言えばよかったのに」

ダ「めんどくさいから(笑)」

コ「そうか」

 

たぶん、この「めんどくさいから(笑)」の一言がすべてなのだろう。

「勝手にギプス取っちゃあダメだよ」

「え?」

医者からしたら、「言うことを聞かない外国人」「すみませんの一言もいえない外国人」になるのかもしれない。

でも、実はリハビリテーション課の先生に明日からギプスを取ってもいいとずいぶん前に言われていた(おそらく院内での伝達がされていなかった)という事情がある。

しかし外国人の夫にしてみれば、それひとつ説明するのに、脳内で外国語に翻訳する手間、通じなかった時の二度手間、そういったことを加味すれば何も言わないのが一番らくで、お互い平和な方法なのだ。

これは私も海外で外国人として生活していた頃、身をもって経験したことだ。

ムッとしたところで、自分が少し我慢すれば事が大きくなることもない。

 

さらに日本語という言語は厄介で、一文字ちがえば途端に失礼な言い方になる。

さっきの看護師とのやり取りを例にとると、

「(あなたの話す日本語は)はやいので」というのと「はやいんですから」

「わからないので」というのと「わからないんですから」

どちらも、前者のほうが柔らかく、後者はより高圧的に聞こえる。

こういった少しの表現の違い・ことばの間違いは感覚的なもので、外国人にはとくに難しい。本人に悪気はなくとも、相手には「失礼な言い方だ」と取られてしまいかねない。実際、私も夫が日本語を話すのを隣で聞いていてヒヤッとすることは日常茶飯事だが、よっぽどのことがない限り指摘はしない(本人には、教えてよ!と怒られる)。

 

そういえば、この間父が夫を飲みに誘ったとき、

父「ダニエル、今日飲みに行かない?」

ダニエル「今日ですか?べつにいいけど(笑)」

と返していて、これはさすがに… あとでこっそり指摘しておいた(笑)

 

今回はたまたま記事に取り上げたまでで、こういったことは、世界中のどこでも起きていることだ。

そんなことみんな分かっている、私が気にしすぎなのかもしれないが、私は物好きでこういうことを考えるのが趣味なのだ。

周りで「言うことを聞かない外国人」「失礼な物言いの外国人」「謝らない外国人」を見かけたら、色々な可能性や背景に思いを巡らせてみたい。

少しの想像力で、優しい世界は作り出せると思うのだ。