フィリピンに恋して。
~フィリピン・バギオのリアルライフ~
イフガオ PR

小江戸川越の「いふがお」と フィリピンの「イフガオ」の話。

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「シンプルでしょう、生活が。一面に広がる田んぼ。高床式の家。下を見れば豚や鶏が歩いてる。あれが、すごく良かったんだよねえ」

ご縁とはなんと不思議なものかと、真昼間から感動の涙がこみ上げた話。

レトロな町並みが特徴で観光客も多く訪れる「小江戸・川越」。埼玉県民でありながら一度もその町を歩いたことがなかったので、週末、家族で行ってみることにした。

あまり下調べというものをしないタイプの私だが、前夜にふと、メインの「川越一番街」には何があるのだろうと気になって調べてみた。

誰かが見所をまとめたサイトを眺めていたところ、メインフォトスポット・時の鐘よりも少し奥に「いふがお」という店を発見。

私の中でイフガオといえば、言うまでもなく夫の生まれ故郷・フィリピンルソン島北部のイフガオだ。

「いふがおなんて、珍しい名前だな。まさかあのイフガオじゃあないだろうな」

と思いつつも、少しの期待を胸に公式サイトを見てみる。

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その「いふがお」という店は、埼玉の川越市と東京の国立市にいくつか店舗を構える。掲載されている写真をみても、やはり衣服やファッション雑貨を中心に販売しており、フィリピンのイフガオとはまったく関係がなさそうだ。

(そりゃそうか。)

それでも、なんでまた「いふがお」なんて名前にしたんだろうと、その店のことがジワジワと気になってきた。

 

夫は予想通り目をキラキラと輝かせて食いついてきた。

「川越に、『いふがお』って店があるよ」

「What, really?!?!」

「うん、でもイフガオとは全然カンケーない(笑)洋服屋みたい。

「なんだ!残念。でもなんで『いふがお』って名前なの?」

「しらない。公式サイトをみたけどフィリピンのイフガオとは一言も書いてないよ」

「気になる。とにかく行ってみよう」

 

 

穏やかな秋晴れの土曜日。

夫が日本に来るまで私は一体ここで何をしていたのだろうと思うくらい、歩いたことのない場所がたくさんある。川越もその一つだ。

漬物屋さんの店先でおじちゃんのトークに負けて買ったキュウリが本当に美味しかったり、

12分3000円という観光客価格の「力車」に乗ったら想像以上に面白かったり(夫はいつかこの仕事をしたいと大はしゃぎ)、

揚げたてのさつま芋コロッケがとんでもなくサクサクで思わず娘と目を見合わせたり、

外国にあそびにきたかのような気分で川越観光を楽しんでいたが、その間中もずっと今日一番の目的である「いふがお」が気になって頭から離れなかった。

 

「このへんだよ」

「あれ?通り過ぎた。おかしいな、地図ではこのあたりのはずなんだけど。」

「あった…!」

黒を基調としたその店は、店名の看板に気が付かないほど江戸調の川越の街に馴染んでいた。

 

店内に入ってみる。サイトで見たとおり、洋服やファッション雑貨を中心に並んでいる。

接客で忙しそうな女性スタッフの手が空くのを待って、夫が声をかけた。

「あのー、すみません」

「はい」

「あのー、このお店の名前はなんで「いふがお」ですか?」

「フィリピンのイフガオ族です」

「えっ?フィリピンのイフガオですか?」

「そうです。みなさんね、朝顔とか夕顔とか勘違いして聞いてくださるんですけど、そうじゃなくてフィリピンのイフガオですって、いつも説明するんですよ(笑)」

どおりで、もう100回は同じ回答をしているのだろうと思うほど即答であったわけだ。フィリピンのイフガオ族なんて知ってる人はほぼいないのに。

「あの、僕フィリピンのイフガオ人です!」

「えっ?そうなんですか?」

「なんでイフガオの名前なんですか?」

「オーナーがねえ、イフガオがだいすきで、それでお店の名前にされたって聞きましたよ」

「すごい」

「オーナーね、たぶん向こうのお店にいますよ。ここを出たところのね」

店舗から少し先の向かい側に、モードギャラリーがあった。そこに行けば「いふがお」の名付け親であるオーナーに会えるというのだ。

「あの、オーナーはなんていうお名前ですか?」

「川本さん」

「ありがとうございます!」

 

ギャラリーを見つけるのに時間はかからなかった。白い、洒落た建物の一階だ。

入ってすぐのところにいた男性スタッフに夫が声をかけた。

「あのーすみません。川本さんはいらっしゃいますか」

「私ですけど」

その瞬間、私の頭の中では朝日テレビ「世界の村で発見!こんなところに日本人」で、千原せいじがついに日本人との対面を果たしたときのあのメロディが流れた。

夫がフィリピンのイフガオ出身であること、私たちがこの店を訪れた経緯を伝えると、川本さんは仕事の手を止めて、一呼吸おいたあと、ゆっくりと話をしてくださった。

「ああ、そうですか。

ーもう30年前になるけど。20代の頃は、いろんなところに旅をしていてね。24歳の頃だったかな。イフガオに行って、すごく好きになってしまったんだよね。すごく思い入れのある地名だから、店の名前にしちゃったの」

彼は笑いながらそう言った。

ダニエル「どうしてイフガオがすきですか?」

川本さん「シンプルでしょう、生活が。一面に広がる田んぼ。高床式の家。下を見れば豚や鶏が歩いてる。あれが、すごく、良かったんだよねえ。なんだか懐かしくなってきちゃったな(笑)

当時の記憶を探るように、時々斜め上の方向をに視線を移しながら話をしてくれた。イフガオのゆっくりとした時の流れを思わせるような、落ち着いた話し方だ。

川本さんの語るイフガオの魅力が、まさに私が好きなイフガオの情景と一致して、何とも言えない温かい、嬉しい気持ちになった。

イフガオは30年前から変わっていないのだ。

ダニエル「でも、どうして、はじめてはイフガオに行ったんですか」

川本さん「あのねえ、30年前に旅をしていたときにねえ、行く宛の決まらない飛行機の中で、前に座っていた人の鞄から、木彫りの孫の手が見えたの。それがすごくいいなと思ってね。どこのものかと聞いたら、フィリピンのイフガオだと。それでイフガオに行っちゃったの。そうしたらとても気に入ってしまって、村にステイしてしまった。その後4年にわたって何度もイフガオに行ったんですよ」

コノミ「木彫り工房に?」

川本さん「そう。村の人たちと一緒に滞在しましたよ」

コノミ「すごい。どうやって行かれたんですか?やっぱり、当時も乗合バスで?」

川本さん「乗合バスですよ。イフガオに行くバスは、いいよね。だって、それまではいろんな人がいるけども、イフガオに行くバスの中はみんはイフガオの人でしょう。イフガオの人は、やさしいよねえ」

そういう川本さんも、とても穏やかで優しい笑顔だった。

店の名前にしてしまうほど好きとはどういうことなのか、私は自分で店を持ったことがないのでわからないが、川本さんの言葉の節々にはイフガオへの愛が溢れているように思えた。

川本さん「最初は、イフガオの木彫りを持ってきて、ここで売っていたんですよ」

そういって彼が指差した、私たちが立ち話をしているすぐ隣のショーケースを見ると、たしかにファッション雑貨の土台となり支えているのは、とても見覚えのあるイフガオの木彫りだった。

こうして言われてみないと気が付かないものだ。

コノミ「これ、どうやって運んだんです?」

川本さん「ジープニーの天井に括り付けて、イフガオからマニラまで運んで。そこから品川まで船で運んで。品川の港からここまでトラックで運んで。もう大変でしたよ!(笑)」

 

 

今、ここで販売している洋服の半分は国内、半分はタイから仕入れてきているのだそうだ。

奥のコーナーに、目を引く雑貨が並べられていた。動物を模った木のスプーンや、手編みの籠など。手書きの値札に「ウガンダ」と書いてある。

コノミ「これは、ウガンダから直接持ってこられたんですか?」

川本さん「私のパートナーがアフリカ好きでね。これは彼女が買い付けてきたんですよ」

コノミ「すごい!」

川本さん「本当は、こういう自然のものが好きだから、売りたいんだけどね。いろいろ難しくて」

そう話す川本さんの表情は、少し淋しげにみえた。その「いろいろ」の部分を聞こうとしたら、夫に遮られた。

ダニエル「これ、もしかして川本さんのですか?」

そう言って夫がスマホの写真を見せたので、補足。

コノミ「このあいだ東京の谷中に行ったら、メイン通りの手前でおばあさんが売ってたんです。夫が間違いなくイフガオの木彫りだっていうので購入して持ち帰ったんですが、まさか川本さんのところから回りに回ってうちにきたのかと思って(笑)」

川本さん「これはちがいますね(笑)これ、イフガオのもの?色が違うよね」

ダニエル「そう。きっとよく知らない人がペイントしたんだと思います。あとで上塗りします」

ド派手な蛍光色で色付けされラメまで入れられてしまったイフガオの木彫りをみて思わず怪訝な顔をする川本さんの反応が、夫が最初にこの木彫りを見たときの反応とまったく同じで笑ってしまった。

▼東京・谷中で購入したイフガオのものと思われる木彫り

 

およそ30分くらい(もっとだったかもしれない)立ち話に付き合わせてしまったにも関わらず、これまで店を訪れた中でイフガオ出身の人ははじめてだと、川本さんは大変歓迎してくださり、最後は名刺をいただいた。

夫はうれしくて胸がいっぱいになったのか、涙目になっていた。

それをみて私もうるっとした。

なんて幸せな空間なのだろう。

川本さんが最後に口を開いた。

「そう。じゃあ、旦那さんはイフガオの人で。…国籍はどちらですか?」

「あ、この子はフィリピンと日本で… え?あ、私?私ですか?私は日本人です」

「え?あ、奥さん日本人?ああ、そうですかあ。日本人。はははは(笑)」

東南アジア人に間違えられるのは日常茶飯事であったが、ここまで流暢な日本語を披露してからのお国はどちらですかは初めてで新鮮だった。

 

そんなたわいもないやり取りのあと、またお会いしましょうといって、私たちは店を後にした。

いつも予期せぬ素敵なご縁に恵まれているが、この日の出会いも感動的で素晴らしいものだった。

興奮と胸の高鳴りがおさまらないまま、とりあえず何か食べて落ち着こうと入った中華料理屋がまた美味しくて、昼間から二人で瓶ビールを2本もあけてしまった。

帰宅して、夜布団に入り眠りにつくまで、久々に夫とイフガオの思い出話が絶えなかった。

■「いふがお」公式URL:https://www.ifugao.net/