「婚約の約束」?
ロックダウン真っ最中の5月のある日、隔離生活53日目。
何もすることなく二人してベッドでゴロゴロしていると
突然彼の口から「ECQ終わったら、婚約する?」という言葉が飛び出した。
※ECQ (Enhanced Community Quarantine)=強化されたコミュニティ隔離措置。コロナ禍のフィリピンで市民に課された厳しい規制措置で、この間は自由に外出ができなかった
婚約をしたことのない私は「婚約って、事前にパートナーにするかどうか聞くものなのか?(笑)」と率直に疑問に思った。
「実はECQの前にお母さんと指輪買いに行こうってこっそり話してたんだけど、そしたらこんなことになっちゃったから」と。
指輪はアルミホイルの手作りでいいよって言ったのに、ちゃんと考えてくれてたんだ・・・!(感動)
一応補足しておくと、「彼女に渡す婚約指輪を一緒に買いに行くくらいママ大好き」っていうのはフィリピン男子のデフォ。
もちろん家庭によるけれど、彼はお母さんと親友みたいに仲が良く何でも話すし、肩を組んで街を歩く。
日本人にはちょっと想像できないけど、私はそんな二人の関係はとても素敵だと思う。
「婚約って、どうやるの?指輪のサイズを彼女に聞くべきなのか、わからないからコノミに聞いた」と、笑いながら話す彼。
私も分からないし、とくにこだわりもないので「いいよ、ECQ終わったら婚約しよう」と答えた。
あとでググったら、婚約の定義とは「相手を将来の伴侶と決めて結婚の約束をすること」らしい。
となるとこれは、婚約の約束ってことでOK?(笑)
バギオで指輪探し
ECQ隔離措置の規制が緩和され外出が許可されるようになった頃、婚約指輪を探しに二人で街に出た。
向かった先はバギオ唯一のショッピングセンター、SMモール。(怪しげな名前だがいたって健全なショッピングモール)
フィリピンの婚約指輪の予算が全くわからなかったので、まずはモール内にある2~3店舗あるちゃんとしてそうな(?)ジュエリーショップを回って物色。
ダイヤモンドがついたのは20,000~30,000ペソ(約43,000~65,000円)。
シンプルなのは大体8,000ペソくらい。(約17,000円)。
もっと安いので6,000ペソ前後(約13,000円)のもあるけど可愛くないしすぐダメになりそう。
それとは少し離れたところに一際高級そうなゾーンがあって、シンプルだけど綺麗なデザインの指輪を見つけた。タグを見ると、100,000ペソ超え(約21万5000円)。
その場をそっと離れ、見なかったことにした。
※参考までに、フィリピンの平均月収は10,000~20,000ペソ(諸説あり)
大学の頃、「指輪はハリーウィンストンじゃなきゃイヤ!」と言う友達がいたけど
私は専らそういうのに興味がなくて、ナニーウィンストンでも、ウィンストンでなくても、ノーブランドでもよかった。
だから値段は気にしないけど、初めての指輪だしずっとつけるものだから、デザインは気に入ったのがいいな、と思ってた。
彼の周りには何人か、全身ブランド品を身に着けたような”いわゆるリッチ”な友達がいる。
その友達が彼女にあげた婚約指輪が30,000ペソ(約65,000円)でおったまげたっていう話は、相場の参考になった。
リッチピーポーでで30,000ペソなら普通は10,000ペソかそれ以下なんだろう。
というか当時二人で一ヶ月30,000ペソ生活をしていた私たちからすれば、その店で一番安い6,000ペソ前後の指輪を見ても「一番安くてこのくらいか・・・意外と高いな」という感想だった。
結局SMモールでは2~3店舗回ったけど気に入った指輪は見つからず、他の日に出直そうということに。
運命のお店
それから一ヶ月くらい経ったある日。
食材の買い出しにスーパーへ車を走らせている途中で、突然思い出したように「そうだ、指輪買わなきゃ」と言い出す彼。
私は今起きたようなボサボサの髪の毛、すっぴんに眉毛だけ描き足した顔面、パジャマの延長のような服装で、婚約指輪を買いに行く羽目に。
まあ、私の見た目を気にする人なんていないから別にいっか。
いつも隠し事をしない彼がその日は珍しく「連れて行きたい場所がある」と。
そう言って連れて行ってくれたお店は、“Pilak Silvercraft and gift shoppe”。
バギオでは超有名な観光施設であるボタニカルガーデンの、道路を挟んだ正面。
いつも車で通っていた道なのに、反対側の観光地にばかり目を引かれてそんなお店があるなんてちっとも知らなかった…!
コロナの影響なのか(はたまたこれが通常営業なのか)お客は一人もいなくて、優しそうなおじさんが一人で店番をしていた。
店内はそこそこ広いけど、SMモールに入っているジュエリーショップのような煌びやかさはなく、素朴な感じ。
シルバー製品だけでなく、コルディリエラで作られた伝統的なバッグやアクセサリーからフィリピンの刀まで置いてある。
▼Balisongと呼ばれる、フィリピン発祥の刀
この店のシルバー製品に関する説明書きがあった。
・Pilak Silvercraftのシルバー製品は、コルディリエラで採れた最高品質・最高純度の銀から作られている
・Pilak Silvercraftでは、1970年代後半からバギオ市でシルバー製品を作り、展示してきた
・固体及び鋳造品の銀含有量は95%
・生産された製品やアイテムは、バギオ市の伝統的手法を用いて手作りされている
いい・・・!
彼の故郷であるコルディリエラ産の銀を使用し、彼の生まれ育ったバギオの伝統的手法で作られた指輪を見たとき
日本の女子大生が目をキラキラさせながらその魅力を力説していた人気のジュエリーブランドや
SMモールの高級ジュエリーショップで不愛想な複数の店員の前に並んでいたダイヤモンドにはなかった
胸躍る感覚が私の中にあった。
こういうところの価値観が彼と似ているのはすごくラッキーだと思う。
彼も私と同じで、周りがいくらブランド品を身に着けていようが自分はおじいちゃんにもらった洋服を穴が開くまで着ているし、自分が育ったバギオやコルディリエラの伝統文化をすごく大切にする人だから、このお店をすごく気に入っていた。
620円の婚約指輪
ひとつひとつ職人さんが手作りしている、世界にひとつだけの指輪。
いろんなデザインの中で二人でこれにしようと決めたのは、何もついていない、一番シンプルなリング。
即決だった彼に対して、優柔不断の私は「少しストーンがついてるのがいいな~」「あと1ミリくらい細いのがいいな~」と何十分も悩んだ。
彼が選んだそのシンプルなリングは最初は「ちょっとシンプルすぎるし安っぽく見える・・・」と、あまり気に入ってなくて
せっかくの婚約指輪だから、お互い気に入ったのを買えばいっか~と、違うデザインの物を買おうとしたんだけど
最終的には「やっぱり彼とおそろいがいい!」と、同じのにした。
結果、大満足。最初みた時は自分に似合わないと思ったけど、つけた瞬間めちゃくちゃしっくりきた。
値段はひとつ280ペソ。
日本円にして約620円だ。
内側に日付や名前を入れたくて聞いてみたけど、小さすぎてできないって言われた。
袋に入れてそのまま渡されそうになったから、「さすがに婚約指輪だから箱にいれてもらおうよ・・・!」と彼に目線を送って(そこだけ変にこだわる)お願いすると、激しく真っ赤な、シミのついた箱にいれてくれた(笑)
▼フェイスシールドをして指輪を選んでるのも、数年後にはいい思い出になるよね
620円の婚約指輪。
一番シンプルで、一番私たちらしい。
どんなに高価な指輪より、私たちにとってはずっとずっと価値がある。
いつか新品の輝きを失っても、この気持ちを忘れずにいたいな。
定職も貯金もなく、コロナで街が大変だった時、お金がないのに婚約指輪を買いに行ったこの日の気持ち。
そういえば、指輪のサイズ、ダニエルは8号で私は5号だった。
日本で指輪のサイズを測ったことがなかったのでその時は気が付かなかったけど、日本だと7号でも細いんだね。
洋服のサイズが日本と海外で違うように、指輪のサイズも違うのかな。
帰ってからお義母さんに
「それ、婚約指輪?婚約指輪って普通、男性が女性にあげるものだよ。なんであんたたち二つ買ったの?」
と言われた。
知らなかった(笑)まあ、細かいことは気にしないでおこう。