フィリピンに恋して。
~フィリピン・バギオのリアルライフ~
日本生活 PR

夫が病気になりまして。②

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

 

もう随分前のことのようだが、ある土曜の深夜に、夫が腹部に激しい痛みを訴えて大学病院へ行った。

検査の結果、どうやら大腸で激しい炎症が起きているようだということが判り、週明けにも地元の(対応が悪いことで有名な)総合病院で詳しい検査を受けるようにと言われその日は帰宅した。

 

夫が病気になりまして。① 10月のよく晴れた土曜日。 念願叶って、保育園の行事にはじめて親子3人揃って参加できる!と前々から...

 

紹介状を持って向かった総合病院はこれまでも何度か単発で行ったことがあるものの、ちゃんと通うのはこれが初めてだ。

クチコミのとおり色々と酷かったが、ここでは割愛。

最初に行った病院と同じく採血やCT検査、レントゲン撮影等をここでも一通りやってもらったあと、看護師が深妙な面持ちで「この後お医者さんと話がありますので。たぶん長くなりますから」と言ってきて、年配の患者で溢れた騒がしい病棟から、誰もいない薄暗く静かな病棟へ移動させられた。

コノミ
コノミ
この流れで「長くなります」って、怖さしかないわ

という心の声が勢い余って口から漏れていなければ夫には聞こえてなかったはずだ。まあ、漏れていたとしても日本語だから夫には分からないのだが。

ところが10分くらい待ったあと、医師が部屋に入ってくるなりろくに病状も説明しないどころか病名すら言われないまま「二週間入院するか、一ヶ月通院するか。どっちにします?」と究極の二択を迫ってきた。

急に二週間入院か一ヶ月通院かと言われても、どんな病気かもわからないのに決められない… というのが口に出さずとも私の顔に書いてあったらしく、医師は面倒臭そうに「大腸で炎症がおきてますから。普通の人の24倍。」と教えてくれた。

僕は炎症が酷いので入院したほうがいいと思うけどね、との忠告があった上で、

「じゃあ明日までに決めてきて。シンキングね!はい。はい。」

夫にも分かるように(?)頭を指さして「thinking」とだけ言い残し、さっさと出て行ってしまった。

私が娘を出産したとき「年末だからみんな帰省して人が足りない」と言ってバタバタしていた慢性人手不足の産院を思い出して気分が悪くなった。

とりあえず、医師の塩対応を見る限り特段ヤバいことでもなく、よくあるお腹の風邪なんだなと、少し安心した。

 

帰宅後、所要時間1分ほどの医師の説明を元にネットで調べた結果、どうやら病名は「大腸憩室炎」と「腹膜炎」の併発のようだった(後で聞いたら正解)。

大腸には憩室と呼ばれる薄い膜があり、排便のときに必要以上にいきんだりすることで憩室が外側に飛び出し、また何らかの原因でその飛び出した憩室が炎症を起こし、夫の場合はその炎症が酷かったので腹膜にまで広がり腹膜炎を併発したということだ。

仕事を休みたくないという本人の希望で通院するつもりでいたが、「身体がSOSを出しているんだからしっかりと治療に専念した方がいい」と家族からの助言もあり、思い切って入院することにした。

翌日、また病院へ行って入院したい旨を伝えると「コロナ禍で面会は一切禁止」

バタバタしていて気が付かなかったが、それはまずい(そもそも入院に関する事前の説明はゼロ、質問をする隙も与えられず入院するかどうか決めろというのもどうかと思う)。

「本人の身体のことを考えると入院したいんですが、夫は外国人で日本語がわからないんです」と話しても、そうですよね〜 としか返ってこない。

(特例を作るわけにいかないってことはわかるけどね)

初めての日本の病院で、二週間もひとりで入院し、訳もわからず点滴で色々なものを体内に注入されたり検査をされたりするのはあまりにも可哀想で、夫は精神的にもタフなほうではないので逆に死んでしまうと思い(笑)時間は倍かかると言われたが仕方なく通院することにした。

 

こうして、夫の通院生活が始まった。

当然、私も通訳要員で付き添わないとならない。

日本で外国人パートナーと暮らすというのはこういうことなんだと再認識したし、これから日本で暮らす国際カップルにはこういう部分を事前に教えてあげたいと思う。

最終受付の16:00までには病院に着いていないといけないので、双方の勤務先にお願いをして治療が終わるまで毎日早退させてもらうことになった。

日本語での会話力はそこそこあり、毎日通院といっても点滴と会計だけの決まった流れなので、2,3日だけついて行ってあとは一人で行ってもらうつもりだったのだが…

 

ナース「今、おなか平気なの?」

ダニエル「へいきってなんですか?」

ナース「…オッケーってこと」

ダニエル「あー、オッケーです」

―別の日

ナース「昨日どっちやった?」
(訳:昨日、どちらの腕に点滴を打ちましたか?)

ダニエル「もう一度お願いします」

ナース「昨日どっちの腕にやった?」

ダニエル「すみません、わからないです」

 

…そりゃそうか。(笑)

主語が省略されがちな日本語という言語。それに加えて容赦なくタメ口で話しかけてくる看護師を前に、この10か月で培った夫の日本語力はまったく使い物にならないコトバの塊と化した。

それをみて、時短勤務はファミリーエマージェンシーだから仕方がないとようやく腹をくくることができた。

 

ーーー

 

病院の待ち時間は長い。

数日通って分かったことだが、患者の99%が老人だとこんなことが起こる。

「田中さーん(仮名)」

と看護師が患者の名前を呼ぶ。

5回呼んでも反応がない。

「どこかへ行っちゃったかしら」

と看護師が裏に消えた後に、呼ばれた田中さんが10メートル離れた場所から「おや?呼ばれたかな?」と杖をつきながらゆっくりゆっくり歩いてくる。

田中さんが受付に辿り着く頃には、名前を呼んだ看護師はもういない。

「あれ?勘違いか」

元いた場所に戻る。

永遠に順番が回ってこない。

毎日延々と繰り返されるこの寸劇を、私たちはただ眺めながら自分たちの時間を待った。

 

ーーー

 

ただ病院に通うだけなのに、夫の観察は面白い。

ある時は、血圧計のベルトに腕を通したままボタンを押さずじっと待っているおばあちゃんのところへ行って

「ボタンおしますよ」

と、代わりにボタンを押してあげる。

 

またある時は、点滴が終わっているのに誰にも気づかれず(また本人も気付かず)ただ時間を無駄にしているおじいちゃんを見て

「すみませーん!この人の点滴終わりました」

と、代わりに看護師を呼んでいた。

 

目の前を通過した女性にすかさず

「おばあちゃんは本当にオシャレですね」

と声をかけた時には、

「あらっ、やだぁ〜///」

と、おばあちゃんを精神的に20歳くらい若返らせていて、嫌味のないストレートなナンパに妻の私が感激した。

 

ーーー

 

夫の血管はあまりに細い。

フィリピンで病院に行った時にも、針を刺す血管を探し当てるのに看護師が苦戦していたので嫌な予感はしていたが、やはりここでもそうだった。

ベテラン看護師ですら悲鳴をあげていて、酷い人は3回刺して、最後は刺しっぱなしのまま中でグリグリ針を回したあと、「ダメだこれ!アタシには無理!ごめんなさいね!」と大きな声でギブアップを宣言し、交代していた。酷い。

左腕はタトゥーがカバーしているので看護師は一目見ただけで「あっ」と息をのみ、まるで見てはいけないものを見たかのように、そっと服の袖を下におろす。

気付けば夫の右腕には針の跡が無数にできて、本人は病院に行くのを嫌がっていたが、私は今日はどの看護師がシフトに入っているか予想するのがささやかな楽しみになっていた。(笑)

▼待ち時間に今日のスタメン(看護師)をチェックする夫

 

ーーー

 

通院中の食事は「柔らかいもの」「胃にやさしいもの」と言われていた。

工場に勤務していた頃は毎日巨大おにぎり×2とカップラーメン、今の職場に変わってからは栄養満点の学校給食にお世話になっていたのに、料理苦手の私がいきなり「愛妻弁当デビュー 〜柔らかく胃にやさしいメニュー縛り〜」を強いられる形となってしまった。

作る側の私の気分を上げるために保温スープジャーが付いた弁当箱を買いにホームセンターに行ったはいいが、散々迷った挙句結局買ったのはなぜかジプロック。

最初は日本風のお粥やうどんを作っていたが、途中から少しでも美味しく食べて欲しくてフィリピン風のルーガウ(お粥)やマミ(うどん)を作ってみたら、明らかに反応が良い。

「(フィリピン弁当は味が濃くて)本当においしかった!!!(日本のは味が薄い)」

と大きな声で感想を言ってくれるからとても分かりやすて良い。

インスタグラムのタイムラインに流れてくるような色とりどりのお弁当や品数の多い晩御飯より、フィリピン料理一品勝負の方が断然ウケが良い。これはフィリピン人と結婚するメリットだと言える。

 

ーーー

 

入院なら二週間、通院なら四週間と言われていたが、夫は驚異の回復力と若さのおかげで、わずか10日で炎症の数値を元に戻した。

最初は点滴の針を刺す血管を探し当てるのに苦戦していた看護師たちも、治療が終わる頃には一発で針を刺せるように…は全くなっておらず、結局最終日も2回失敗された。

医師も最後に顔を合わせたときは、人手が足りていたのか心に余裕がある様子で、ちゃんと説明してくれた。

双方の職場にとても心配をかけて私自身も精神的に疲弊しかけたが、

・国際結婚健康第一(病院は付き添いマスト)
・老人が溢れる病院内では世話焼きフィリピン人が大活躍(介護職はやはりフィリピン人の天職)
・愛する人への弁当作りは意外と苦にならない

など新たな気付きもあったので良かった(?)

 

大好きな仕事を早退して腕にいくつもの針穴を量産するはめになって、さすがの夫もこたえたらしい。

あれ以来コンビニで大好きなジャンクフードを買うのは一切やめて、代わりにサンドイッチやヨーグルト、プロテインバーを買うようになった(コンビニ食をやめたほうがいい)。

念願のエニタイムフィットネスも登録し、朝の4時だろうが夜の10時だろうが毎日自分の行きたいタイミングで行っている。

いつも思うことだが、娘と夫が元気だと私が精神的に半端なく安定する。

初詣に行ったら健康祈願のお守りを買おう。