フィリピンに恋して。
~フィリピン・バギオのリアルライフ~
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フィリピン人夫がことごとくサプライズを失敗するんです。

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32歳の誕生日を迎えた私。

誕生日の前日、仕事終わりにスマホを見ると母からLINEが入っていた。

母
ダニエルがサプライズで携帯をプレゼントするって言ってたから…それはコノミに聞いてからにしたほうがいいよと言っちゃった。10万円をおろして買いに行ったらしいけど、幸い(?)在庫がなかったらしい

母は、日々夫や娘のことについて「これは」と思うことは一応私に報告してくれる。

電車の中で「ありがとう!」と返信しつつ、思わずフフッと笑ってしまった。

 

帰宅早々、夫が物悲しい表情で私の前に正座した。

「Hey mahal, I have something to tell you.」

夫がこういうときは、深刻な話題・どうでもいいこと のどちらかだと決まっている。

内容は知っていたが何も知らないフリをして「どうしたの?」と聞いた。

「誕生日プレゼントを買いに行ったんだよ。ツマのスマホ、画面がバキバキだからそろそろ買い換えたいかと思って。じつは、昨日一度携帯ショップにいったんだ。すごく熱心なショップスタッフに勧められてね、それを買うってもう決めてたの。今日、10万円をおろして店に行ったら『在庫切れ』って言われて買えなかったんだよ」

「スマホを買おうとしてくれたの?なんてやつ?」

「iphone13mini」

「色は選びたいよ(まあ既に買ってくれてたらそれはそれで面白いから使うけど。笑)

「絶対気に入るよ!!!でもおかあさんに話したら、『それはコノミに聞いてからのほうがいい』って(笑)」

母から聞いた話とまったく相違がなく、逆に笑ってしまった。夫は嘘がつけない。出会ったときからバカ正直なのだ。

「気持ちは嬉しいけど、高価なプレゼントはほんとうにいらないって。面白い話が聞けたからそれで充分だよ(笑)」

…と言いつつ、後日アウトレットモールでじゅうぶん高価といえるモンベルのトレッキングシューズを買ってもらった。

 

 

夫のサプライズ下手は今に始まった事ではない。

付き合い始めて間もない頃、デートに誘われた。

当時私はバギオの語学学校に通っており、外出が許可された週末だけ夫(当時、彼氏)の実家で過ごしていた。毎週金曜日は授業が終わるときまって校門の前までバイクで迎えに来てくれたが、その日はバタバタしているからと、はじめてタクシーを使って一人で彼の家まで行った。

家の前でタクシーが停まると、ドアが開き夫がバタバタとーーそのあとを、当時8歳の妹がついて乗り込んできた。

「We have chaperone today.」

若い女性の付き添い人のことを “チャペロン=chaperone” というんだよと、ため息混じりに教えてくれた夫のほうに目をやると、髪が短くなっている。

受け取ったばかりの給料で髪を切り、たった一夜のデートのためにモールでシャツとジーンズと靴まで新調し、頭からつま先までビシッとキメたのに、出発直前でお義母さんに妹の世話を頼まれ、二人ではなく三人のデートになってしまったのだ。

(思えば、フィリピンにいるときは私たち二人きりのデートというのはほとんどなかった。妹たちやお義母さんと一緒に出かけることがごく普通だったからだ。私はそれが楽しかった。)

「今日はいいお店に行こう」と連れて行ってくれたのは、キャンプ・ジョン・ヘイ内、ビュッフェ形式のレストランだ。豪華なシャンデリアで明るく照らされた店内。私たちには到底不釣り合いの真っ赤な布地に覆われた椅子に緊張しながら座った。

すると、メニューをもったホールスタッフがまってましたと言わんばかりにサッと机の横にきて得意げに言った。

店「今日のテーマは日本料理です」

ダ「Oh my god. それ一番ダメなやつ!」

コ「なんで?いいよ、私は」

ダ「だめだめ。ワイン好きにワインをプレゼントするようなものだよ。わかるでしょ?」

 

今日はここと心に決めてきただろうに、呆気なく店を後にした。ことごとくキマらないところがいかにも夫らしく、笑ってしまった。

結局、何軒か歩き回って行き着いたのは(私たちには)お高めのフィリピンレストランだった。実家にはないWi-Fiとバニラシェークを手に入れた妹の、勝ち誇った表情よ。


思えばあの頃はお互いの価値観もよくわかっておらず、夫としては私に良いところを見せたかったんだろう。あれから多くの時間を一緒に過ごすうち、私たちの間に「高価なものに囲まれること=幸せ」ではないという共通認識があることがわかってきた。

今では、あの日飲んだ一本800ペソもするワインを話のネタに、カレンデリアで70ペソの食事をする。

ワンランク上の店で背筋を伸ばして上品な料理を食べるより、いつものカレンデリアで「これは絶対美味しいから!」と夫のすすめる謎の肉を食べ、おばちゃんにまけてもらった20ペソでジュースでも買おうという方が私たちらしいのだ。

 

 

そんな夫にも、一度だけサプライズ成功の事例がある。

結婚後、日本にきてはじめて一緒に過ごすクリスマスシーズンのこと。

「ツマ、何か欲しいものある?」

私は、フィリピンに行ってからというものなぜか物欲がなくなり、夫が日本で働き始めてから何度もほしいものはあるかと聞かれ、その度に「とくにない」とつまらない返事をしていた。

その日も欲しいものはなかったが、毎度毎度同じ答えなのでたまには… と、洗濯物を畳みながらあまり深く考えずに「…強いて言えばマフラーかな。今、一個も持ってないの。首、寒いから」と答えた。

 

クリスマス当日、私より早く仕事に出る夫が、

「ハイ、ツマ!」

と、嬉しそうな笑顔で私に袋を押し付けて、こちらが反応する隙もなく家を出て行った。

もうすぐ2歳になる娘が「ごみ?」と無邪気に聞いてきた。ごみと思うのも無理はないようなポリ袋に入っていたからだ。

袋の中を覗くと、私が欲しいといったマフラーが入っていた。

 

4つ。

 

マフラーが4つも入っていた。これにはおったまげた。

パートナーにマフラーをもらう人はたくさんいるだろうが、「一度に4つもマフラーをもらう人」はこの世にどれくらいいるだろう。

その頃X(旧Twitter)では毎年恒例の「4℃炎上問題(30代女性が4℃のネックレスをクリスマスプレゼントにもらって炎上)」が起きていて、「4℃で炎上なら古着屋で購入したマフラー4つをもらった人は失神してしまうのだろうか…などと考えながら、そのうちの1つを首に巻いて仕事に行った。