フィリピンに恋して。
~フィリピン・バギオのリアルライフ~
日本生活 PR

夫プロデュースのフィリピン式誕生日会が想像以上にフィリピンだった話。

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

 

娘が2歳の誕生日を迎えた。

コノミ
コノミ
娘ちゃんの誕生日会、フィリピンスタイルと日本スタイルどっちでやりたい?
ダニエル
ダニエル
今年はフィリピンがいいね

 

一年前、娘1歳の誕生日当日。

夫は入国直後で、都内某ホテルで二週間の隔離の真っ只中だった。

色々なことが落ち着いたらお祝いするつもりではいたのだが、「夫と娘の初対面」という一大イベントを数日後に控え、私の気持ち的に誕生日会の準備どころではなかった…というのが正直な話だ。

隔離が明けたら明けたでバタバタとしていて、当日の朝「そうだ。娘の誕生日会、今日やっちゃう?」の一言で急遽誕生日会をすることが決定した。

一升餅や選び取りなど日本の伝統的イベントは取り入れつつ、料理はフィリピンの誕生日会で出てくるようなメニューにしたい という私の希望で、はじめての娘の誕生日はフィリピン×日本 異文化混同スタイルで祝うことになった。

事前に購入しておいた一升餅・選び取りセットを引っ張り出して、テーブルにはいつかフィリピンの誕生日会で見て以来ひそかに憧れを抱いていた “キャベツマシュマロソーセージ” に ジョリビー風・激甘パスタ、それにルンピアと手作りいちごパンケーキが並んだ。

家にあるスマホをフル稼働させて動画撮影をしながら、フィリピンの義家族はリモート参戦。

一升餅、選び取りはフィリピン人家族も興味津々で大盛り上がりだった。

一方で料理については「何でそんなに少ないの…?」と驚かれた、というより全員ちょっと引いていた。

 

義家族が質素な(私の感覚では普通の)誕生日会にギョッとしていたことについては、フィリピンの誕生日会事情を考えれば納得がいく。

今は別々に暮らしている義父と義母は、出身地が異なるので言語も文化もまったく違う。

マニラ出身の義父の家系では、誕生日はとにかく盛大に祝う。ビュッフェスタイルの食事、日本ではコストコで見るような特大ケーキが1~2台、普段は買わないアイスクリーム、大人は酒を飲み、リビング備え付けのカラオケを朝まで楽しむ。

先日行われた義父の誕生日会では、どこかの島に親族総勢40人が集まったと聞いた。

義母の地元であるイフガオは対照的で、誕生日を盛大に祝う文化はなく、多くの家庭がクリスマス、年末年始でさえも静かに普段通り過ごす(厳密にいえばイフガオの中でも地域によってイベント文化は違う)。

私は義母の家で過ごさせてもらうことが多かったので、誰かの誕生日がくるといつもより少し贅沢してイナサルとケーキをテイクアウトし、クリスマスには家族だけで食事をした後リビングでコーヒーを飲んでいつもどおり静かに過ごした。

 

バギオでは、何度か誕生日会に招待してもらった。

当時夫と一緒に暮らしていたアパートの大家さんの娘の誕生日会では、バースデーガールの友達が15人ほどに加え、大人たちはそれ以上いた。私と夫は部外者だが、下の階に住んでいたので突然招いてもらい、手ぶらでお邪魔した記憶がある。

義父家族の中の一人(もはや誰が家族の何に当たるのか覚えていない)の誕生日会では、家族親戚の一部だけで20人くらいいて、家の中でみんなでカラオケをして大騒ぎだった。

ジプニーの車内でたまたま話して友達になったママの誕生日会は、家族5人+ママの大親友1人 水入らずだった(そこになぜ呼んでもらえたのかは未だに謎である)。シニガン、アドボ、ムール貝を煮込んだような家庭料理とケーキ、それにジンをひたすら飲んでお祝いした。やはりここでもリビングでカラオケ。

地域や家庭によって差はあるにせよ、とにかく多くの人が誕生日という日をとても大切に、楽しみにしていると感じた。

 

先日、甥っ子が4歳の誕生日を迎えたとき、義妹は一ヶ月前から準備していた。

バースデーボーイの写真入りの垂れ幕やキーホルダーを作るために、日本にいる夫にも手伝ってほしいと前々から依頼がきていた。

当日は一瞬だけリモートで繋いでもらったが、パッと見20人くらいの子どもが集められ、どこで雇ったのかピエロが大量の風船を持って立っていて、甥っ子はもちろん義妹はぴったりとした華やかな衣装をきてマイクスタンドまで用意して、お得意のトークで司会を完璧にこなしていた。食事はビュッフェスタイル。

この準備に一体いくらかかったのかは不明だが、義妹は朝から晩までせっせと働いて得たお金をこの一日に費やしたという。

それほど彼女らにとっては誕生日、とくに子どもの誕生日は一大事なのだ。義家族が、部屋の一室で小さなテーブルを囲んで行われたうちの娘の誕生日会を見てギョッとするのも無理はない。

夫は私と同じであまりイベントにお金をかけたいタイプではないのだが、今年は初めて自分で稼いだお金で娘のお祝いができるということで、とても嬉しそうだった。

 

数日後、仕事帰りの夫からメッセージが入った。

ダニエル
ダニエル
フィリピンレストランに行って当日デリバリーしてもらえないか話してくる

料理は手作りで…と思っていたが、去年は私の希望でやらせてもらったので今年は夫に任せようと、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

夫が送ってきたFacebookのリンクに飛んでみると、フィリピン人がやっているらしい一般的なレストアンドバーだった。

―数分後、夫からまたメッセージが入る。

ダニエル
ダニエル
閉まってた

定休日でもなく、開店時間からすでに一時間半経っているのに店が閉まっているとのこと。

ということは、ちゃんとしたフィリピン人が経営している店だ。味は間違いないだろう。

フィリピンではこれと似たようなことで時間を無駄にすることが多い。

夫は日本に来てからも、美容院にアポなしで行って案の定今日はいっぱいですと断られ、次回の予約だけして帰ってくる、みたいなことがある。来店の予約をしに店に行くという、現代が生み出した矛盾。

コノミ
コノミ
せっかく予約という画期的システムがあるのになぜ使わないわけ?予約なしで行って結局断られたら時間無駄だなって思わない? 
ダニエル
ダニエル
バギオにはそういうシステムがないからそれによってどのくらい時間が短縮できるのか知らない。だから予約しないと時間を無駄にするというのは考えてみたこともない。これからはしてみるよ、”YOYAKU”。

 

別の日、今度はその店に「YOYAKU」の電話をしてみたが何度電話をかけても誰も出ない。結局そこはやめようということになり、いつも夫が立ち寄っているフィリピン屋台に行った。

ダニエル「この辺でフィリピン料理デリバリーしてくれる店知ってる?」

店員「私たちデリバリーアルヨ!でもデリバリー担当が今いないからちょっとだけ待って Sir」

ようやくデリバリー担当が現れたのは「ちょっとだけ待って」の二時間後。ビールを片手に陽気になった夫は、早々と詳細まで決めてきてしまった。

優柔不断な私とは対照的な夫の仕事の早さは、時に私を困らせる。

・レチョン
・スパゲッティ
・ルンピア
・ビコールエクスプレス
・アンパンマンケーキ
・バルーン飾り

ダニエル「3man」

コノミ「3manって?成人男性3人分ってこと?」

ダ「ノー。3マンエン」

コ「さ、3万円?!」

ダ「そう。大人10人分」

コ「なんで大人10人分なの(笑)人数8人だよね?」

ダ「そう言ったけど、みんなおかわりするから10人分でいいって言われた」

コ「レチョンって丸ごと?どういう状態で出てくるの?」

ダ「知らない。たぶんベリーレチョンじゃない?」(※レチョンは豚の丸焼き。ベリーレチョンだと腹の部分ということになる)

コ「スパゲッティは何ソース?」

ダ「しらない。何も言ってなかった」

コ「ルンピアは何本あるの?」(※ルンピア=フィリピン風春巻き)

ダ「聞いてない」

コ「ケーキって何の味?チョコ?」

ダ「それも言ってなかった」

コ「バルーン飾りってどんなの?写真見せてもらった?」

ダ「見せてもらってない」

コ「情報が何もないのだが」

見た目も味も実際の量も、ケーキがチョコなのかいちごのショートなのかそれすら知らされず、8人と言っているのに一方的に10人分にされて「3万円」と提示してきた店側にも驚きだが、何の疑問も抱かずそれを承諾した夫にはもっと驚いた。

結局、量は大人8人分にしてもらい、パスタは家で作ることにして、その分少し値下げしてもらうことにした。

夫に任せると言ったくせに結局口を出している。いや、出さずにはいられなかったのだ。

装飾に関しても自分で用意するつもりだったが、夫がいつも良くしてもらっているお店であんまりケチケチするのも良くないと思い、もう気にしないことにした。

 

誕生日会当日。

プレゼントで用意した「おままごとセット」の組み立ては夫に任せ、私は夕方の来客に備え家中の掃除を開始。

食事は結局、ご飯、パスタ、生野菜、フルーツだけこちらで用意した。

コノミ
コノミ
料理を作らなくていいなんて本当にラク!

この量を自分たちで作るとなるとあまりにも大変だ。たまには料理をプロに任せるのもいいもんだ、と思った。レチョンの状態も、ルンピアの本数も、ケーキの味も、何も分からないままだったが一体どんなものが配達されてくるのか楽しみになっていた。

 

と、甥っ子の体調不良で参加者のうち3人が来られなくなるハプニングが発生。

料理は大人8人分頼んであるので、ダメ元で夫の親友のマサを招集したら二つ返事で来てくれることになった。

父「クリスマスイブ当日に誘って来てくれるなんて、彼女がいないってことだね!」

コノミ「父上、その発言は失礼でありますがゆえ」

 

4時半過ぎに料理が到着。

高級車が家の前にとまり、中からオーナー夫婦が出てきた。

夫とタガログ語でなにか喋っている。

私は隣でニコニコしながら食事を受け取った。

聞き取れる単語から、どうやらバルーンの話をしているらしい。「ごめんね~」と言っている。

最初に言われていたとおりの金額を渡し、夫婦を乗せた車は去っていった。

コノミ
コノミ
…これだけ?
ダニエル
ダニエル
少ないね…

 

大人8人分あるとは思えない量だった。そして昨日の夜に作ったのか、完全に冷めている。

コ「バルーンは?」

ダ「昨日全部膨らませて用意してたんだけど、車に乗せたら全部しぼんじゃったから、ないって」

コ「謝ってたのそれか」

それにしても、バルーンを用意できなかったことについてもっと上手い言い訳は他になかったのかと思う。

コ「絶対足りないよ!マサ呼んじゃったしどうする?」

誰もいないのに小声で夫に話す。マサには「食べるものはたっぷりあるから手ぶらできてね!」とまで言ってしまった。

結局、マサを駅でピックアップした帰りに近くの中華料理店で追加の料理をテイクアウトした。予算は完全オーバーだが、致し方無い。

 

予定を30分くらい過ぎて誕生日会を無事に始めることができた。

さすが注文段階からフィリピン感をもろに出してきただけあり、本場の味だった。これには日本に来てからずっとフィリピン料理が恋しいと言っていた夫も大満足だ。

▼絶品のベリーレチョン

 

冷凍のアンパンマンケーキは手作りではなくどこかで購入したものだったが、娘は大喜びだった。甘いケーキはまだ与えたことがなかったので、この日もアンパンマンを拝むだけ。娘は満足していたが、夫の顔には「誕生日くらいケーキを食べさせてあげようよ!」とハッキリ書いてあった。

親友のマサも来てくれ、まるでフィリピンに戻ったかのように温かく幸せな時間を過ごした。

 

フィリピンという国は、いつもこちらの予想の上をいく。

当日まで何が届くかわからない「料理ガチャ」も、なぜかしぼんでしまったバルーンも含めてのあの価格なのだ。

あまりイベントごとを重視しないタイプだが、家族ができてからはもっぱら楽しみになった。愛する夫と娘の喜ぶ顔が見られるのは、やはり嬉しい。

来年も、再来年も、どんな形でも、家族の記憶に残るような日になればいいと思う。